知的障害のある方が電車を止めてしまったら?誰が賠償する?

こんにちは。

許認可申請と福祉の専門家、平松智実法務事務所の平松智実です。

 

認知症の方が線路内に立ち入ったことで事故に遭い電車を止めたことによる損害の賠償を、事故に遭った認知症の方の家族に求めた裁判をご存知でしょうか。この裁判の判決は認知症だけではなく知的障害のある方が他人に損害を与えた場合に誰が賠償をするかということについて判断されたものです。

 

これは愛知県在住の当時91歳の認知症の男性(Aさん)が線路内に立ち入り、事故に遭ったことで生じた損害の賠償を鉄道会社がAさんの妻(Bさん)と長男(Cさん)に求めた裁判です。BさんはAさんと同居、Cさんは横浜に住んでいました。Cさんは自分の妻をAさんとBさんの住む実家の近くに住ませてAさんの介護をしてもらっていました。

 

第一審とでは鉄道会社の主張を認め妻と長男に対して約700万円、第二審では350万円の支払いを命じました。理由として、妻であるBさんは夫婦扶助義務があるため監督義務がある、長男であるCさんはAさんの介護の方針について主導的な立場であったので監督義務があるというものでした。

 

これに対しては、Aさんの介護に無関心で何もしていなければ賠償の責任はなく、一生懸命介護をしていた人に賠償の責任があるとすれば介護現場は直ちに崩壊すると非難されました。

 

そして最高裁判所で2016年3月に以下のような判決がでました。

・家族に賠償責任はない

・今回の場合、BさんとCさんは監督義務はない。

・監督義務はなくても監督義務がある者(監督義務者)に準じる立場として責任を負う場合もあり得る。

・監督義務や責任については、生活状況や介護の実態などを総合的に考慮して判断すべきである。

・裁判官5人のうち2人はCさんは監督義務者に準じる立場に当たるが、義務を怠らなかった(妻を派遣するなど)ため責任を免れる。

 

これは認知症や知的障害のある方が、他人に損害をあたえても責任はないということではありません。最高裁が総合的に考慮して判断すべきと言っているように、介護をきちんと行っていたかということや危険を予測し予め対応していたかなどによって、違う判決が出る可能性もあります。また、今回は損害倍書を求めている会社が日本有数の大企業であるということも考慮されたようです。

 

認知症や知的障害のある方のご家族や成年後見人として知っておくべきことの一つとしてご紹介しました。

 

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